ご飯の魅力を語ろう

vol.3笠原将弘さん

恵比寿 日本料理「賛否両論」オーナー兼料理人

動画の内容をインタビュー記事で読めます

#3 食卓にもっと和食を取り入れるためには

一汁三菜を用意するのは大変という理由で和食を敬遠しがちの人もいますが、そもそも現代の人はおかずの数を作りすぎたり、調味料の分量をどれもきっちり正確に量ったりして、自分で大変にしてしまっているきらいがあります。また、最近のレシピは2人前で紹介しているものも多いですが、少量を作るのは水分が少ない分、失敗しやすいんです。一度にたくさん作ったほうが味も決まりやすいし、残ったら翌日も食べればいいだけでしょう。作った料理が冷めていく過程で浸透圧によって味が染みておいしくなりますから、むしろ最初から翌日分も作るくらいのつもりでいいと思います。
味付けだって、そこまで厳密に調味料の分量を量らなくてもいいのではと思いますよ。少なくとも僕の世代のお母さんやおばあちゃんは、大さじいくつとか何ccとか量っていませんでした。その結果、同じ料理でもちょっと塩辛い日や味の薄い日があるわけですが、だからこそ家庭の料理は飽きがこないんです。昨日作ったおかずの残りに冷ややっこ、それに魚を焼けばもう3品になります。これくらい気張らなければ、一汁三菜はそう大変なことではなくなります。
うちの祖母は5人前の味噌汁を作るのに、お椀に水を入れて5杯分鍋に注いでいました。そうすれば計量カップで何ccなどと量る必要もなく簡単ですよね。けれど今はレシピがないと作れない料理も多く、それが「和食は難しい」という思いを生んでしまう原因の1つになっている気がします。けれど自分たちの国で昔から食べられてきたものですから、本来は一番簡単な料理のはずなんです。「揚げ物は面倒」という声も聞きますが、これまた僕の祖母は「今日は面倒だから天ぷらにしよう」とよく言っていました。油さえかかっていればそこに素材を入れていくだけだから、これほど簡単なものはない、いろいろな食材を煮込むカレーのほうがよほど面倒だと言うんです。そして油を使い切るくらい山ほど作って、あまった天ぷらは翌日甘辛く煮たり、冷めた天ぷらをおやつがわりに食べたりしていました。
和食は会席料理のようなものばかりではありません。手の込んだものを作る必要はなく、旬のものはそれだけでもう勝手においしいものです。
秋の秋刀魚は何のアレンジもすることなく、ただ塩焼きにするだけで十分おいしいでしょう? たっぷり脂が乗っているから、じゃあその分大根おろしもたっぷり添えようとなったら、それがサラダ代わりになります。このくらい楽な気持ちで和食に向き合えば、難しいと思うこともなく、一汁三菜も気軽に用意できるはずです。
#4へ続く